映画『イージー・ライダー』を久しぶりに見た感想

『イージー・ライダー』(1969年公開のアメリカ映画)の感想。少々ネタバレがあるのでご注意を。

10年近く前にDVDで見て好きになった映画。ネットフリックスにあったので久しぶりに見た。

舞台は60年代。反体制的な若者のワイアット(キャプテン・アメリカと呼ばれる)と相棒のビリーは薬物の密売で大金を手に入れ、バイクでアメリカ横断の旅に出る。

主人公たちが大きな目的のために何かをするというスタイルではなく、旅の途中の出来事や出会った人々との関わりを見せていく。ジャンルで言うとロードムービー。

アメリカン・ニューシネマの代表作とも言われる作品で衝撃的な結末が有名。

自由の国アメリカ

走るバイクと流れていく風景を映しつつ音楽が流れるPVみたいなシーンが所々に挟まれる。青空の下広がるアメリカの雄大な風景を見るのが楽しい。カッコイイし自由と開放感を感じる。

映像がすごくいいんだよぁ。感覚的な話だからうまく言葉に出来ないけど本当にいい。

でも映画が進むにつれだんだん不穏になっていく。

ラストシーンはどんよりした曇り空だった。陰鬱な感じで終わるのがいい。そこに当時のアメリカの現実を感じる。

自由の国だと思っていたアメリカだけど、実は自由なんてなかったというのが作品のテーマだと思われる。理想が現実によって無残に打ち壊される話。

序盤から不穏な場面はちょこちょこあった。長髪で奇抜な格好の二人は宿に泊めてもらえないとか。

めったに雨の降らない砂地に種を蒔くヒッピーたちも象徴的。都会を捨て理想を求めて荒れ地にコミューンを作った彼らだけど、現実を知らなかった。

文明を離れ自給自足を目指していたけど実際にやってみると楽なものじゃなく食糧不足に。どうしようもなくなって最後は雨が降るよう神頼み。

理想というのは美しいけど、現実の前では儚いものなのだと感じてしんみりしてしまうよ。

ワイアットも同じで、初めは大金を手に入れ自由になれる思っていた、だけど、旅の途中で色々な経験をするうち、実際にはアメリカには自由が無いという現実を悟った。そのせいか終盤はずっと浮かない顔をしている。

一方で相方のビリーは終盤までのんきなもの。金持ちになったからフロリダまで行けば引退して自由な余生が過ごせると思ってる。

でもワイアットは、アメリカには自分たちのような人間の居場所が無いことに気づいてしまった。金があっても自由は得られない。

浮かれるビリーに向かって「失敗だよ(we blew it)」と言う。俺たちはしくじったんだ。

アメリカの現状が惨憺たるものである以上、悲劇的な結末は決定づけられていて、遅かれ早かれラストシーンのようなことになっていたように思える。

ワイアットには自分たちの末路がなんとなく分かっていたように見えた。

挫折

『イージー・ライダー』を含むアメリカン・ニューシネマには時代の空気が濃厚に入っているのがいい。理想を掲げ、より良い生き方や平和、平等を求めて動いていた人々の熱気が感じられる。

その一方で、当時体制に立ち向かった人たちは沢山いたけどなかなか勝てなかった。いろいろな社会運動があったけど体制側に阻まれ挫折することも少なくなかった。

悲劇的な結末の作品が多い所から考えると、熱意と同時に諦めや挫折感もあったんだろうと思う。理想と現実のギャップを否応なしに見せつけられていたからこそ、そういう結末になる。同時に、現実は非情だけどそれでもやらなくちゃいけないんだというメッセージにも思える。

『イージー・ライダー』の主人公たちは別に社会を変革しようという革命家ではなかった。ただ自由に生きたかった。従来のルールに従わず、好きなように生きようとしたんだけど、それさえ許されなかった。

保守的な人間によって握りつぶされてしまう。

映画後半で出てくる南部の食堂にいた田舎アメリカ人は陰湿でいやーな感じだったな。食堂に入っただけでグチグチ嫌味を言う。いや、あれは嫌味を通り越してヘイト発言に近い。

自由の国アメリカも田舎は排他的で差別意識バリバリなんだね。

マイノリティーに対する差別意識が凄まじい。ワイアットとビリーは白人男性だから一見マジョリティ側のようだけど、長髪で奇抜な格好をしているから当時の田舎アメリカ人にとっては排除すべき異分子だったんだなぁ。モロに差別対象。

それにしても当時のアメリカの田舎では、気に入らないよそ者を殺してもお咎めなしだったのかな。ちょっと信じられないけど、作り話ではなく実際にあったことを元に描いているようにも感じる。保安官もグルっぽかったし。

現代でも無抵抗の黒人を殺した白人警官がお咎めなしで社会問題になっているくらいだから、差別が激しかった当時はもっと酷くてもおかしくないと思う。

しかし、長髪でちょっと違う格好をしているからって殺そうとするのは怖いね。劇中で言われてるように、ワイアットたちの中に自由を見て恐れたのかな。不安になって殺さずにはいられなかったのだろうかね。なんてやつらだよ。

酔っぱらい弁護士

旅の途中で出会う酔っぱらい弁護士ハンセン。若いジャック・ニコルソンが演じているのだけど、この人がなかなかいいキャラをしていて好き。

まず酒を飲んで「ニッ!ニッ!ニッ!」っていう変な声を上げる所が面白い。一見飲んだくれのイカれたやつなんだけど、ちょっとした言動から育ちの良さや知性が伝わってくるのがなんかいい。意外性がある。

焚き火を囲んで宇宙人や進んだ文明の話をするところも好き。当時のスピリチュアルやオカルト、夢見がちなカルチャーの香りが感じられて興味深い。

おわりに

若干分かりにくいし好みが分かれる映画だと思うけど、刺さる人にはとても刺さると思う。それにメッセージ性うんぬんを置いておいても、まず映像が楽しい。未視聴の方にはぜひ見てもらいたいな。

吹き替え版も見てみたけど、ワイアットの声がルパン三世(初代)の人だったよ。原語版とはちょっと印象が変わるけどそれはそれで良い。自由人っていう意味ではルパンに近いな。

あと、吹き替えだとワイアットたちが「フーテン」呼ばわりされるのが面白い。寅さんと同カテゴリーか。でも言われてみれば確かに共通点があるな。

 

色々書いたけど解釈が間違っているかもしれないし、自分にはこの映画の背景や60年代の知識がそんなにない。ただの感想なので正確な評論は他をあたってもらうとありがたいです。

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