Amazonプライム・ビデオ限定のオリジナルドラマ『ザ・ボーイズ』シーズン1を全話観たので感想を書きます。
全8話で1話あたり約1時間。原作はアメコミ。
序盤はテンポが遅くやや退屈でしたが、だんだん面白くなり物語に引き込まれました。二日で全話視聴完了。
あらすじ
舞台はアメコミ的スーパーヒーローが実在する世界。どこかで見たことがあるようなデザインのヒーローたちが平和を守っています。しかしそれは表向きの姿でした。
電気屋で働く青年ヒューイは、あるヒーローの起こした事故によって恋人を失います。ヒーロー組織は誠意のある対応をせず、金で解決しようとします。
不信感を抱くヒューイですが何もすることが出来ません。
そんな彼の前に髭面の怪しい男ブッチャーが現れ、腐敗したヒーロの実態を語り、一緒に復讐しないかと誘います。
特殊能力を持たない市民たち(主におっさん)が、「ザ・ボーイズ」として、秘密裏にヒーローたちと戦う物語です。
※以降ネタバレあるので注意!
エログロ
このドラマ、結構えげつないグロシーン、エロシーン(&下ネタ)があります。
本編が始まる前に18禁の警告が表示されるのはそういうことなのねと妙に納得してしまいました。そういうのもネット配信限定ならではか…。
初っ端から人間が木っ端微塵の肉片になるし、人体切断や血みどろシーンも盛りだくさん。
ただ、肉や内臓がそこまでリアルに見えないように手加減されてるような感じはします。わざと作り物っぽくしてるようにも思える。
個人的にはそんなにショッキングな映像だとは感じませんでした。「グロいでしょー」っていうブラックジョークとしてやっている感じ。本格的に嫌悪感を抱かせようとは考えていない感じの描写。
18歳以上でグロが苦手じゃなければ特に不快感なく視聴できるかなと。
あと、18禁とはいえAVではないので性描写に過激さはありません。下品なセリフはあるけれども。
クズヒーローたち
表向きは市民から愛され尊敬されるスーパーヒーローですが、裏側では滑稽なまでに堕落しています。表と裏の落差に驚くばかり。
新人に対するセクハラ、パワハラ。事故で人を殺しても罪の意識を持たないどころか被害者を笑いものにする等々、悪事の限りを尽くします。
特に酷いのがリーダー格のホームランダー(HOMELANDER)。訳すなら祖国マン?星条旗のマントを身に着けた愛国ヒーロー。
金髪イケメンの白人男性で、空を飛び目からビームを出せる。スーパーマンにキャプテン・アメリカを足したようなキャラクターです。
勇敢で正義感に溢れた市民の味方を装っていますが、本性は邪悪の化身って感じ。
相手が犯罪者なら容赦なく首をへし折ったり、内臓を突き破ったり、ビームで体を切断したりして殺害。殺しそのものを楽しんでいる。
ヒーローたちの秘密を知った者は容赦なく暗殺。
それどころか、守るべき市民に対しても冷酷で、助けを求める彼らを平気で見殺しにします。その後の隠蔽工作もしっかり行う徹底っぷり。
追悼式典で神妙に犠牲者の名前を読み上げたり、涙ながらに「自分がもっと早く駆けつけていれば」なんてことを平気で言えてしまうサイコ野郎です。
邪悪なヒーロー企業
クズヒーローたちが所属しているのが大企業ヴォート社。効率的にヒーローたちをプロデュース。グッズやCM、映画などで大儲け。
どうすればヒーローの好感度が上がり企業に利益をもたらすか徹底的に計算してマーケティングをしています。
表向き清廉潔白な企業に見えるよう演出していますが、モラルなど存在せず儲かれば何をしてもOK。計算づくで一切の情がない。資本主義を突き詰めた感じ。最近のグローバル企業を思わせるところがなんとも…。
ヒーローの苦悩
酷いクズっぷりで擁護不可能かに思えたヒーローたちでしたが、物語が進むにつれ彼らの内面や苦悩が描かれるようになります。
意外に人間味があり、同情してしまう部分もありました。
ヴォート社から成果を出すよう常に強いプレッシャーを掛けられ、失敗したらクビにされてしまう恐怖に怯えながら毎日頑張っている彼らは気の毒な存在でもあります。
ヴォート社は非情で、各ヒーローの意思を無視。計画通りに動かせるコマとしか見ていません。余裕の無さから精神が荒んでクズ行為に走ってしまうのはヒーローだけの責任とは言えないと思います。
過大なノルマを達成するためモラルを失ってしまったサラリーマンとも重なって見えます。
一番悪いのは誰か
生い立ちを知ってしまうと、邪悪なホームランダーにさえ同情の余地が生じます。あまりにも気の毒。あんな環境で育ったらサイコ野郎になってもおかしくない。
一番悪いのは誰なのでしょう。当然ヴォート社は悪ですが、ヒーローという虚像を求め、それを盲目的に信仰する大衆にも問題がありそうです。
物事の綺麗な部分だけを見て裏側を知ろうとしない大衆にも責任の一端があるのではないか。
自分の頭で考えず、分かりやすい正義を消費することで彼らの陰謀に加担している。ヴォート社は大衆が望むものを提供しているに過ぎない。
映画『帰ってきたヒトラー』の「大衆を扇動したのではない、彼らが私を選んだのだ」というセリフを思い出しました。
おそろしい。
現代の大衆消費社会に対する皮肉のようにも見えました。
自分も怪物に
ヒーローと対立する「ザ・ボーイズ」の一員ブッチャーは、過去に自分の妻を酷い目に遭わせたホームランダーを激しく憎み、復讐を誓っています。
ヒーローを倒すという目的のためには手段を選ばない所には狂気を感じました。仲間も復讐のための道具としか思っていないという。
しかも彼は殺しを厭わないだけではなく、積極的に殺しを楽しんでいるんじゃないかと思わされる描写もあります。
腐敗したヒーローを憎むあまり自分も同じような存在になってしまったという皮肉。
「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ」というニーチェの格言を思い出させます。
ブッチャーと対照的なのがヒューイ青年。やむを得ずヒーローを一人殺害したけど、そのことで悩んでいます。
最終回で恋人を殺したヒーローと対決。その最中、敵が心臓発作を起こして倒れるのですが、チャンスだととどめを刺すのではなく、救命処置をして助けようとする。
よくやるよと思いました。偉いわ。恋人を殺したうえ、自分の命を狙っていた相手を助けるなんてなかなか出来ない。
一方、悪魔になってまで復讐に取り組んだブッチャーの努力は一切報われないというのが悲しい。完全敗北。考えうる限り最悪の状況を見せつけられた所でシーズン1は終了します。
この作品、悪趣味なシーンを散々見せておきながら、意外にまともな倫理観で作られている印象。人の道を外れた者にハッピーエンドは訪れない。
おわりに
ヒーローものを皮肉ったエログロコメディで終わらせていないところが凄いです。
正義のはずのヒーローが腐敗しているという意外な状況から始まり、「悪のヒーロ」対「正義のザ・ボーイズ」という逆転構造になるかと思いきや、ボーイズ側も正義とは呼べないような行動を取るし、ヒーロ側にも同情すべき事情があることが明らかになる。
世界は単純な善悪の構図では捉えられないというメッセージのようにも思えます。思考停止して単純化すると本質を見誤る。
結構深いテーマがあるし、王道の人間ドラマも見られる。悪趣味な部分に目が行きがちですが、よく出来た作品だと思いますよ。シーズン2の配信が楽しみです。